2013年9月29日日曜日

アイアン・メイデン『魔力の刻印』Iron Maiden, "The Number of the Beast"

Iron Maiden, "The Number of the Beast," 1982

イギリスのメタル・バンド、アイアン・メイデンの3枚目である。1998年のリマスター版では、当時シングルB面だった「Total Eclipse」が追加収録されている。
 さて、2枚目の『Killer』までのボーカル、ポール・ディアノに代わり、今作から新ボーカルのブルース・ディッキンソンである。よくパンク風味のポール・ディアノと、正統派ハイトーンのブルース・ディッキンソンが比べられたりするが、正直自分にはそれほど違いは分からない。両方とも「アイアン・メイデンのボーカルだなぁ」といった印象。もちろん別人の声と言うことは分かるから、あくまでも違和感を感じないということか。
 ボーカルはバンドの顔だと思うが、洋楽は意外とボーカル交代がある。アイアン・メイデンしかり、メタル系に多い気が。キング・クリムゾンもチョコチョコボーカルが変わっているが、あれもあまり気にならない。日本のバンドでボーカルが変わるとものすごく気になるのに。やはり母語かそうでないかの違いはあるのかな。

 今作の一曲目は「侵略者たち(Invaders)」。題名だけ見ると、近未来SF的な歌かと思っていたが、歌詞の内容はヴァイキングだった。たしかにヴァイキングも侵略者か。どうにもInvaderという語感に宇宙人のイメージがこびりつきすぎだ。
 二曲目は「呪われし者の子ら(Children of the Damned)」。この曲はどうにもイメージがつかみづらい。歌詞の内容は、おどろおどろしいフレーズを繋げただけで、そこから明確な物語を読み取ることが難しい。スローテンポから中盤早くなる構成はカッコいいが、X Japan的な感じがして、新鮮味は薄いか(時代的には逆なのだが)。
 三曲目は「囚人(The Prisoner)」。冒頭に不思議なセリフが収録されているが、これはイギリスで1967年に放送されていた「プリズナーNo.6(the Prisoner)」の引用。この「プリズナーNo.6」、ホントにわけがわからない作品で、不条理作品と言っても良い(同じ「プリズナーNo.6」をモチーフにしたのが、Devil Dollの『死せる少女に捧ぐ』)。このアルバム制作時にはすでに「懐かし番組」だったように思うのだが…。
 四曲目は「アカシア通り22(22 Acacia Avenue)」。Wikipediaによると、アカシア通りというのはイギリスにおける中産階級のメタファーで、イギリスには少なくとも60以上のアカシア通りがあるという。とはいえ、この歌で歌われているのはロンドンのイースト・エンド(下町)にある、娼婦シャーロットがいる娼館が舞台。この娼婦シャーロット(Charlotte the Harlot)はアイアン・メイデン処女作でも歌われていた。それが3作目にも再登場というわけだ。こういったイギリスの下層階級におけるホラー風味というのはアイアン・メイデンの得意とするところ(もしかしたらチャールズ・ディケンズなんかが下敷きにあったりするのかもしれないが)。
 五曲目は「獣の数字(The Number of the Beast)」。冒頭のナレーションは『ヨハネ黙示録』からの引用。ここで666を表す獣というのは、本来悪魔ではなく、キリスト教の迫害者、皇帝ネロを指すようだが、まぁ後世普通に悪魔を指すものと解釈された。当然この曲もそういった流れのなかに位置付けられる。しかも、最終的には悪魔の誘惑に負け、悪魔に則られる男の歌である。しかし、この曲のAパート冒頭のメロディが「聖者の行進」に似ているせいで、楽曲そのものとしては、やや緊張感を欠いて聞こえてしまうという欠点も。これに欠点を感じない人もいるだろうけど、自分としてはなぜか気になってしまう。
 六曲目は「丘へ走れ(Run to the Hill)」。曲を聴くだけだと分かりにくいが、歌詞を聞くと、これがアメリカ原住民と白人の抗争の歌であることが分かる。一曲目の「Invaders」と似たような感じか?
 七曲目は「無法者の土地(Gangland)」。ストレートなスピードチューン。歌詞の内容は、無法者の土地で命からがら逃げだす男の話か?
 八曲目「皆既食(Total Eclipse)」はリマスター版で収録。皆既日食に恐れ逃げ惑う人々を謳った歌であり、曲調はややドゥーミーなところもあり(人間椅子っぽさもある、いや、それを言うならBlack Sabbathぽさか?)、アイアン・メイデンの普段の曲とは少し雰囲気が違う。もともとシングルB面だったということで、割と冒険したのだろうか?
 九曲目、アルバムのトリを飾るのは「汝が名よ空しくなれ(Hollowed be thy Name)」。なんとも陰鬱な歌である。これから絞首台に向かう死刑囚の最期の瞬間の回想が綴られている。しかしなんというか…。「俺は地獄に行って楽しくやってやるぜ!あばよ!」という歌じゃないのだ。

誰か俺が夢を見ていると言ってくれ
叫び声をこらえるのは簡単なことじゃない
話そうとすると、言葉が逃げていく
涙が落ちて行く、なぜ俺は泣いているんだ。
結局俺は死ぬのが怖いんじゃない。
終わりがないなんて信じちゃいないんだから。
衛兵が俺を中庭へと引き立てて行く
誰かが独房から叫ぶ「神がお前と共にあらんことを」
もし神がいるなら、なぜ俺を逃がしてくれないんだ?

うーむ、なんとも救いようのない歌である。しかしこれこそアイアン・メイデンお得意のパターン。ほとんど様式美の世界であるが、彼らがこういう曲を作るとき、外れはない。
全体としてよくまとまっているアルバムで、耽美な様式美の世界観もおおむね統一されている(ときたま「ん?」というのもあるが)。

0 件のコメント:

コメントを投稿